好奇心で生きてる

短編や書きたいことをつらつらと。

親友【短編】

「私ね、先輩のこと本当に好きだったの。もう、私、人を好きになるのがこわい。」
親友が言った。そう、大変な失恋をしたのね。
「今は辛いだろうけど、いつかいい思い出になるよ」
そんな、ありふれたことしか言えない私だけれど。
「ありがとう。あなたが親友でよかった。大好き」
親友が少し笑ってくれた。ありがとう。私も大好きよ。

「聞いて!私ね、隣のクラスの男の子、好きになっちゃった!」
親友が言った。そう、素敵な恋になるといいわね。
「応援してるよ。きっと、うまくいくわ」
そんな、ありふれたことしか言えない私だけれど。
「ありがとう!あなたにはなんでも相談できるの。これからもよろしくね」
親友は照れながら微笑んだ。ありがとう。こちらこそよろしくね。

親友の恋が実った。
とても嬉しい。親友が幸せそうに笑っている。
登下校も、お昼ご飯も、週末のちょっとしたおでかけも。ぜんぶ、隣のクラスの彼に取られてしまったけれど。
それでいいの。いずれ、「恋の終わり」を、親友は私に知らせてくるでしょう。
そして、私は安心する。
親友が新しい恋をするたび、上書きされて忘れられる人たち。
ああ、よかった。私は、そんな存在になりたくない。
よかった、よかった。私は親友の唯一。恋の相手なんて、擦り切れるほど使い回される存在じゃない。分かっているの。

それでも、やっぱり。
親友が恋する相手にだけ見せる表情、とか。恋人だけに許される距離感、とか。
親友が投稿するツイートに、「今誰とどこにいるの」、「今何してるの」なんて、気軽にリプライを送ることができる立場とか。
そんなものに、どうしようもなく嫉妬して。
窓の外、手を繋いで登校する二人を、どうしても見ていられなくて。
「おはよう!」と私に近付く親友から、知らない香水の香りがすることが悔しくて。

「おはよう。今日も仲良しだね」と、私は親友に言った。