好奇心で生きてる

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愛された日々は思い出の彼方【短編】

「愛しているんだ」
あなたがそう、言うから。
私は、「ありがとう、私もよ」と返して。ふたり、幸せになれると思っていた。

ねえ、あなた、私って結局、なんだったのかしら。
長年あなたと連れ添った私は、目尻にシワもできたし、昔のように肌も髪もつややかではなくなったけれど。
私、あなたの少し薄くなった髪の毛も、増えた白髪も、口元のひげも、柔らかくなったおなかも、全部、愛していたのだけれど。
あなたは、どうやら違ったようね。
シワなんて身体中探しても見つからなくて、化粧水をつけなくたって瑞々しい肌で、黄色い鈴のように高く笑う、女の子。そんな子を、あなたは今、愛したのね。
責めるつもりはないの。仕方のないことよ。私に魅力がないの。私はあなたに飽きられた。
飽きられる側はいつだって、惨めで、滑稽よ。
飽きる側のあなたには分からないでしょうね。
そういえば、あなたは何年も昔、いっときとても熱中したものがあったわね。熱中しているあなたの姿を見るのが、私とても好きだった。
いつしか、そんな姿を見なくなって、「どうしたの?」と聞いたら「飽きた」と。
私、あのときから「いつか私も飽きられるのかしら」って、ちょっぴり不安だったのよ。
まさか、それから何年も経って、こんな形で目の当たりにするなんて思わなかったけれど。
「あなた、話があるの」
「なんだ、どうした」
きょとんとした顔で私を見る。その表情なんて、出会った頃と変わらないのに。いつの間にか、あなたの愛は別のところに向かったのね。ああ、もしかしたら、私のこともまだ、別の形で愛してくれているのかもしれないけれど。
「離婚してください」
あなたからのプロポーズのこたえが、こうなるなんてね。とても残念で、ただ、悲しい。
あなたが私以外を求めはじめた時から、この結末に向かって私は歩いていた。
証拠となる写真には、とても、直視したくないものもあったけれど。「今日もまた、愛し合ってきたのね」と思いながら、あなたを玄関で迎え入れる日々がやっと終わるの。
あなたを愛しているから、きっと、こんなにも苦しいのでしょう。私を愛してくれないあなたも、私は、愛しているのよ、バカみたいに。
証拠の写真を突きつけたら、あとはもう早かった。あの人は私の要求をすべて飲み込んで、駄々をこねることもしなかった。
なんだ、本当に私、飽きられていたのね。
「飽きた」って、きっと、私が悪いのでしょう。代わり映えのしない、つまらない女になったのでしょう。それならそうとハッキリ言ってくれたらよかったのに。「飽きた」と言ってくれたら、毎日、あなたの嘘にまみれた白々しい「愛してる」なんて、聞かずに済んだのに。
あなたがほかの人と愛し合う姿を、見ずに済んだのに。
あなたを、バカみたく愛し続けることもなかったのに。
飽きられて、裏切られて、それでもまだ愛してるなんて、とても惨め。とても滑稽。なにが一番苦しいかわかる?あなたと私の思い出すべて、あなたの中から消えてしまうことなのよ。だからせめて、綺麗に終わりたいと思うの。
あなたが幸せになれるように、その若々しい女の子とでも、誰かほかに、あなたを愛する人でもいい。
あなたが、飽きず、ずっと愛し続けられる人と出会えることを願っているわ。
私があなたと出会えたように。